2010年08月15日

協働の風景

アローチャートの歩き方(14)

ケアマネやソーシャルワーカーとして走り回っていた頃、
私は常に大学ノートを1冊携えていました。

利用者・家族と対話する時のメモ用です。

その日・その時の挨拶を済ませた後、
頃合いを見て、
「さあ、何からお聴きしましょう?」とか、
「どうされましたか?」などと言いながら、
ゆっくりこのノートを開くのです。

「何から語り始めるのか」を語り手に委ねるのです。

語り手は、ほとんどの場合、
最も気にしていることから語り始めます。

まっ白いノートを意識し、少し緊張して言葉を選びながら
話し始める方は、私の文字も落ち着いています。

そんなモノ眼中に無く、一気に捲くし立てる方の語りは、
私の文字を乱れたものにしていきます。

ノートには、語り手が「何を(優先して)語るか」と、
「いかに語るか」が対話の証拠として残されます。


このノートには、必要に応じて家の見取り図や
住宅改修の必要な箇所のパースなども描いていました。

図やパースを描く時は、語り手はノートを覗き込みます。
語り手にも分かる図やパースだからでしょう。
「そこは、こう」などとアドバイスも受けます。
一緒にノートを創っている感覚です。
それは、取りも直さず「協働の姿」そのものなのです。

私がアローチャートに期待しているものの一つは、
その「協働の風景」なのです。

介護保険制度が始まり、決められた項目を正確に効率よく聞きとる
という作業が前面に出てしまいました。
(訪問調査の方法などという研修もありました)

だからこそ、もう一度「語る」を考えていただきたいのです。

人が「語る」ということは、
自身の価値観を再構築し、再確認する営みです。
そして、自立へつながる重要な契機でもあるのです。

第V章(p38-74)でご紹介する図形・記号とその描き方は、
図やパースを覗き込む姿―協働の風景
を取り戻すための図形・記号だと思っていただければ、
皆さんのご経験と重ね合わせることができるのではないかと考えています。

(つづく)

__.JPG

posted by となりのトヨロ at 14:32| Comment(2) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月04日

両方とも「真の感情」

アローチャートの歩き方(13)

p42-p43
チャートを描く時のキーワードについて、説明しています。
簡単に言えば、
アローチャートは説明するための道具・説明を補うための手段なので、
その目的が達成できればよい、ということを書いています。

丁寧に丁寧に書き込んでいって、見づらいものになった・・・。
そういう事態を避けたいのです。

p44-46
そのキーワードを探すための表です。

p46-p55
アローチャートの部品である
@ まる  A しかく  B 矢印  C ギザギザ
の組み合わせは、何種類あるのか?
そして、それぞれどのような意味を持たせているのか、
を説明しています。

私の事例検討会では、Aしかく を含んだ組み合わせ(※1)を中心に検討を行っています。
(※1)  図25、図26、図27、図29.30.31、そして図32.33です。

特に、図32.33は、利用者・家族の苦しみや苛立ちを表現しています。
アンビバレント、両価感情などと言われるものです。

大阪市立大学の岩間伸之先生は、
その著書「対人援助のための相談面接技術」.中央法規.の中で次のように述べておられます。

「実際、援助を必要としているクラエントは、強いアンビバレント状態にあることが多い。
(中略)クライエントの感情表現の裏には、程度の差こそあれ、
またクライエントが意識化しているかどうかにかかわらず、もうひとつの反対の感情が存在している。
ただし、基本的な理解として、そのどちらかが嘘ということではなく、
そのどちらもがクライエントの真の感情であるという認識をもつことが大切である。」

IMG_8167.jpg


このアンビバレントな感情は、当然私たちも抱く感情なのです。

自分の両価感情が整理できない、整理できても表明できない、
なぜ自分が苛立つのかわからないなどといった情況を想像してみてください。

対峙する感情が両方とも「真の感情」だけに、
本当に辛いことではないでしょうか?

その辛い箇所をケアマネや介護にあたる人々に対して、
「理解して欲しい!」と願うことは、
ニーズのど真ん中にあるニーズではないでしょうか。

アローチャートは、
この部分を推測し、見える化することに重きを置いているのです。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 12:59| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月30日

アセスメントは仮説づくり

アローチャートの歩き方(12)

アセスメントは、「ニーズ」を明らかにする行為です。

と言っても、
これが正解だという「ニーズ」が存在していて、
アセスメントする誰かに発見されることを待っている・・・そんなことは無いのです。

利用者のある状況と向き合った誰かが(例えば、ケアマネが)
その状況を意味づけし、
仮説として表現するものなのです。

つまり、「ニーズ」やそれを中心に作成されるケアプランは仮説そのものなのです。

ここで想定されるのは、
「これが正解だという事実もあるのではないか」という異論です。

確かに、アセスメントをする際、誰の目にも同じに映る事実はあります。
例えば、歩行ができない、目が見えない、拘縮がある、独居である等々。
しかし、これらは、「ニーズ」をかたち作る要素の一部にすぎません。
「ニーズ」は、それらの事実を本人がどのように意味づけしているのか、
という本人の中にある主観的事実と複雑に絡み合って生まれます。

そのために、
その主観的事実を推論するという作業が必要であり、
結果的に、アセスメントする者の主観が混入してしまうのです。

だからこそ、仮説は検証されるべきものですし、
自己修正的特質をもつべきものなのです。

したがって、いくつかの仮説の中から最も検証に価する仮説を採用し、
それを現場で検証するという営みが科学的な介護の現実的な姿だと考えます。
もちろん、検証した結果は次なる意味づけの証拠となっていきます。

仮説の採用基準については、別の機会で述べますが、
仮説を形成する際の証拠をいかにうまく説明しているか
ということが基本になります。

p41〜p42で扱っている「!」マークや、「?」マークも、
仮説を表現するための方法だと理解していただいて構いません。
posted by となりのトヨロ at 10:45| Comment(4) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月22日

緻密さと簡素さ

アローチャートの歩き方(11)

p40〜p41

二種類の図形によって仕分けされた情報を、繋ぐ時に用いる記号です。

図形を繋ぐ時には、
それぞれの関係性を検討しながら繋いで行きます。

※ ここでは分かりやすくするために
「@情報収集→A関係性を検討しながら繋ぐ」という説明をしますが、
実際の作業では、
「関係性を検討しながら情報を収集する A→@ 」という
逆をたどる思考・作業もあるはずです。

繋ぐ時に検討する「関係性」は、
1) 因果関係
2) 相容れない関係

の二種類になります。

※ 「関係性」の詳しい説明は、p49〜の説明をする際に行います。

1) 因果関係は、「→」(矢印)で表現します。 
○→○ とか ○→□ と描くと、
左側の図形が「原因」、右側の図形が「結果」
という因果関係を表現したことになります。

2) 相容れない関係は、(直線上にギザギザ)で表現します。
ブログでは、描きにくいので拙著で確認していただければ助かります。

ここまでで登場した図形・記号は、
四角、丸、矢印、直線上にギザギザ
という4種類ですね。

アローチャートは、この4種類の図形・記号を駆使して、
利用者の全体像を捉えようとする表現(説明)方法なのです。

もっと多くの図形・記号を使えば、
より緻密に表現(説明)が出来るのかもしれませんが、
忙しいケアマネや現場のことを考えると、
これ以上複雑にはしたくないのです。

緻密さと簡素さ・・・
その妥協点をさぐりながらの表現(説明)方法なのです。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 10:42| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月20日

楽しんで描く

アローチャートの歩き方(10)

p39〜p40
いよいよアローチャートを描くところまでやってきました。
ここからは、「楽しんで描く」ということも意識していただければ嬉しいです。

アローチャートで使用する図形は二種類です。

客観的事実は、キーワードを丸や楕円形で囲みます。
主観的事実は、長方形で囲んで表現します。

当初、客観的事実の因果関係を整理することから始めたアローチャートなのですが、ケアマネさんから、利用者さんの気持ちも同時に表現したいという希望が寄せられ、主観的事実の表現を追加しました。

どちらから描きはじめても構いませんし、取り混ぜながら描いていってもいいのですが、
最近は主観的事実(長方形)から考えていくことをお勧めしています。

(その理由は、もう少し後で詳しく説明しますが、「アンビバレントを探す」ということをアローチャートを描く際の「道しるべ」とした方が整理が早いと解ってきたからです。)

図形で囲む言葉は、キーワードで構いません。長い文章を書く必要はありません。
アローチャートは、描いた人が説明をする道具でもあり、必ず補足説明されながら見せられていく図なのです。
ですから、見る人と説明できる人が共有できるギリギリのシンプルさで描けた方が観やすい図になりますよね。

表計算ソフトなどで描き保存しておくと便利ですが、初めのうちは手描きをお勧めします。
私の経験では、鉛筆などで、描いては消しを繰り返すことで考える力が生まれるような気がします。
また、決められたスペースの中にバランスよく配置する感覚も身についてきます。
私の場合、シャープペンシルはポキポキ折れてしまいますので、先の丸まった鉛筆を好んで使います。よろしければ一度試してみてください。

この二種類の図形を次でお話しする、これまた二種類の線で繋いだものがアローチャートなのです。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 12:15| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月13日

現場メソッド

アローチャートの歩き方(9)

p31〜p34は、主観的事実と客観的事実について書きました。

ここでお願いしたいのは、
「これは、主観的事実なのか?それとも客観的事実なのか?」と
悩まないでいただきたい、ということです。

それを分類することが、ここの作業の本質ではないからです。
また、仮に間違っていても後からいくらでも修正ができます。
悩む時間があれば、作業を先に進めていただきたいと思います。

それでも、「いや、きちんと分類しておきたい」と言われる方のために、
いつも、このように言っています。

主観的事実は、
@ 価値観
A 考え
B 感情
それ以外は、とりあえず客観的事実としてください。

※1 主観的事実を取り扱うという考え方は、現場のケアマネさんの発言がきっかけになりました。


p34〜p36
収集した情報(主観的事実と客観的事実)の全体関連性を検討するというステップです。

このステップこそが、闇を取り払い、ケアマネの思考過程を「見える化」
する作業なのです。

収集した情報同士の関連性を考える時、アローチャートでは、二種類の関連性を取り扱います。
@ 因果関係
A 相容れない(相反する)関係
です。

※2 この「A相容れない関係」という発想も、現場のケアマネさんの発言がヒントになりました。

アローチャートの中核となった、主観的事実と相容れない関係は、※1※2でお分かりのように、現場のケアマネさんの発想の中から生まれているものなのです。
だから、「現場メソッド」と言えるのです。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 11:48| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月10日

闇を取り払うもの

アローチャートの歩き方(8)

p29〜p30

アセスメントという作業は、
二つのステップから成り立っています。

@ 情報を収集する
A 収集した情報を分析する


この二つのステップです。

(註:実務的には、@とAを行き来するような場合もあると思います)

昨日のアローチャートの歩き方(7)で書いた「アセスメントの闇の部分」というのは、このステップAを指します。(白澤政和先生の表現では、「ブラックボックス」)

この部分は、ケアマネが「頭の中で」※1 行う仕事であり、「目に見えない」※2 部分でもあります。

なかには、パソコンが半自動的にやってくれる事業所もあるかもしれません。

確かに繁忙なケアマネには、便利なパソコンや、職人芸で時間を節約することが必要なのかもしれません。

でも、闇の中で行う仕事は、

1) 他者に説明できない
2) 自分にも説明できない
3) したがって、共有できない
4) また、自分もこの部分の技術を獲得できないし、上達もしない

などの欠点が考えられます。

そして、やがてこれが「よくわからないもの」となり、
ケアマネの力や誇りを奪ってしまうのではないか、と老婆心ながら考えてしまうのです。

アローチャートは、この闇の部分を取り払い、
説明できるように、共有できるようにするために現場で考えられた手法なのです。

※1,※2 福富昌城


(つづく)
posted by となりのトヨロ at 11:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月09日

アセスメントの闇の部分

アローチャートの歩き方(7)

※ 少し間隔が開いてしまいましたが、続きをやっていこうと思います。
※ タイトルの書き方を変えました。

p25〜p29

人は、仕事をする時「よくわからないこと」があると、力が出ませんよね。

若い頃、会社の命令で選挙の手伝いをしたことがあります。
私が担当したのは、有権者の名簿作りでした。
数名で手分けをして、候補者の関連団体等さまざまな名簿から、有権者の氏名・住所・年齢・家族名等を、また別の名簿に書き写すという作業でした。
パソコンなど普及していない時代でしたから、すべて手書きです。
とにかく、朝から深夜まで、来る日も来る日も、Bという名簿からAの名簿へ、Cという名簿からAという名簿へ、Dという名簿からAという名簿へ、Eという名簿から・・・。

若かった私は、その仕事がどのような意味を持つのか知りませんでした。
誰も説明しませんし、誰も聞きもしなかったのです。

ついに1週間でギブアップし、会社を数日休んでしまいました。

何のためにやっているのか、何に役立つのか、その仕事がどんな意味をもつのか、
それらが分かっていれば、もう少し頑張れたのかもしれません。

ケアマネも同じだろうと思います。

ケアマネの場合は、特に、その業務の中心となるアセスメントの周りにある「分かってはいるのだが説明できない」ような専門用語の数々が、
静かに・ゆ〜っくり、ケアマネを痛めつけているのではないでしょうか。

とりわけ、白澤政和先生が「ブラックボックス」と名づけた、アセスメントの闇の部分は、
よくわからない状態のままでも仕事ができてしまうという性格を持ち、
白澤先生も「ケアマネを苦しめている」と表現されています。

そのことを、実はケアマネも知ってはいるが、どうしようもない、
という状況のまま10年が過ぎてしまったのです。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 10:55| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月01日

アローチャートの歩き方(6)

p22〜p24

「ケアマネジメントの専門性はココだ!」
「3年間ケアマネをしたので、アセスメント力が向上した!」
などという ”気づき” は、ケアマネに力を与えます。
しかし、なかなかこうした実感が無いまま経験年数だけが増えていくのです。

また、ケアマネは、いつも「自立支援」という(実はよく分からない)ものを気にかけながら仕事をしています。
しかし、忘れてはいないのだけれど、自分の仕事のどの部分と繋がっているのかが分からず、カレンダーに追い立てられるように業務をこなしていきます。

専門性を志向しながら、「自立支援」の理念を現実化するために説明・説明・説明・・とエネルギーを注ぎこむのです。

p22〜24は、アローチャートを用いることで、こうした現状を打破できるということを書きました。

この効果は、私が経験したことが中心になっていますが、多くのケアマネさんからも似たような経験談が寄せられていて、決して独り善がりのものではないと自負しています。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 11:38| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月28日

アローチャートの歩き方(5)

p16〜p20

ケアマネジメントのプロセスで、利用者との協働というものが成立するためには、どのような要素が必要なのでしょうか?

それは、ケアマネジメントプロセスすべてにおいて(漏れなく)、丁寧な説明をしながらの共同作業です。

これを実現させるためには、ケアマネの表現力(発信力)と、利用者の理解度を察知する受信力が必要であることは言うまでもありません。

したがって、発信力と受信力のいずれかに難があれば協働は成立しなくなります。アローチャートは、この発信力と受信力を補う効果も持ちます。

もう一点指摘をさせていただくと、協働を成立させる共同作業に関して、ケアマネジメントプロセスは、脆弱な部分を構造的に持っています。
つまり、共同作業に馴染まない箇所が在るということです。

それは、アセスメントプロセス(情報収集と分析)のうち、「分析」プロセスなのです。「分析」プロセスは、ケアマネと利用者との共同作業に持ち込みにくいということです。分析だけはケアマネが一人で行い、その結果のみが利用者に知らされます。ですから、このプロセスには利用者が参加できないのです。

私の研究(2005)によれば、利用者が参加できない時間は、ケアマネは「自立支援」に資する仕事をしていないことになるのです。

アローチャートを用いると、利用者を「分析」プロセスに参画させることも可能となり、ケアマネジメントプロセスから利用者を(一時的にではあるが)排除してしまうことを防止できます。

(つづく)
posted by となりのトヨロ at 11:08| Comment(0) | TrackBack(0) | アローチャートの歩き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。